忍者ブログ
雑記や本館の更新履歴がメインなブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 原稿用紙十八枚ちょっと。執筆七時間ほど。色々手間取りましたが合わせてそれくらいの時間です。途中、手が止まってしまったので結構かかってます。推敲してないので色々見苦しいかもしれません。

 とある死後の世界でのお話。
 男は黄泉路の案内係に振り回されます。




「あ、冥土はあっちですよ」
 霧の中、接客用の笑顔で黒の娘は告げた。
 その手には笑みに振り合いな大鎌が在る。凶悪で禍々しい柄は娘の身長ほどもあり、先端の刃は蒼の光を纏って鋭く長く、
「色々刈り取れそうだな」
 案内した男にそう言われるくらいだった。
「はい、おじさんの首くらいなら一秒です。楽勝です」
「そいつは凄いな」
 得意げに胸を張る娘。背後には大きな立て看板があり、矢印と『あっちにある川を越えたら冥土だよ!!』という文字が躍っている。見たところ、手書きだ。
「はい、私凄いんです。だから、こんな黄泉路の案内係で終わるなんて絶対絶対もったいないと思うんです。おじさんもそう思うでしょ? それなのに先輩ったら『死神たるもの現世に出る前に黄泉路で一万人を案内しろ』とか言うんですよ? やってられないですよ、そんなこと。だってだって、一万人ですよ! しかも次々来るわけじゃないんですよ!? 普通にしてれば冥土行きなのに、ふらふら歩いて道に迷う間抜けな魂を一万ですよ? 滅多にいませんよ、そんなお馬鹿さん! ああ、もうどうしてこんなことしなくちゃいけないんだろう」
「悪かったな、馬鹿で間抜けな魂で」
「!」
「なんだ、その口が滑ったみたいな顔は」
 乾いた笑いで誤魔化す娘に男は呆れ、頭を振りながら長く息を吐く。
「ああ、そうだ。お前さんここに詳しいんだろう? ちょいと聞きたいことがあるんだが」
「はは……ははは、はは……って、なんですか? 質問ですか!? ダメですよ! 黄泉路の秘密は全部秘密なんですからね。一般分類の魂さんには教えられません!」
「そうなのか、残念だな。さっきここに来るときに妙な扉を見かけたんだが……」
「とととととびとと扉ああぁ!?」
 目の色を変えて娘は男に駆け寄った。
「うぉ……、危ねぇ……! おま……急に近寄るな。鎌が刺さるところだっただろうが!」
「ひゃあ、ごめんなさい。うっかり刺さってたら、おじさんの魂消えちゃうところでした。この大鎌に食べられた魂は色々悲惨なんですよね。ああもう無事で良かった。うんうん、ホント良かったですね!」
 男は青い顔で無精髭の生えた顎を撫でる。
「で、そんなことより、おじさん扉見たんですか!? 分厚くてでっかくてトゲトゲした扉ですよね!?」
「お前さんの態度に若干驚嘆を覚えていたりするんだが、まあ、そうだな、そんな扉だったと思う。どっかやべぇ所に通じてそうな、そんな扉だ」
「ふふ、鋭いですね。その扉は断罪螺旋の御扉と言って、魂たちが――って何言わせてるんですか! 誘導尋問!? くっ、一般分類のくせに死神を手玉に取るなんて……!」
「いや、お前さんが勝手にひとりで……」
「聞こえません聞こえません聞こえません! さあ、それより案内してください、その扉の所まで! 今すぐ出発です、さあ行きますよ、こっちですか? こっちから来ましたよね。ほら歩いて歩いて! なにを変な顔をしてるんですか。扉が消えちゃったら困るんですからね、はやくはやく!」
 聞こえない振りかよ、とか。お前が俺を案内するんじゃなかったのか、とか。おじさん呼ばわりの次は変な顔かよ、とか。色々言いたそうな顔をした男は深く深く息を吐く。
「そう慌てるな」
 足は前に出た。黒の娘へと向かって歩み行く。

「あったあった、ありました! 良かった、まだ消えてない」
 断罪螺旋の御扉を見つけた黒の娘は声を跳ねさせた。
「案内ご苦労様。もういいですよ、さようなら。冥土はあっちです!」
 びしぃと何処かを指差す娘。
「はい、案内終了。これで一件終わりっと」
「おいこらちょっと待て」
「なんですか。しつこいですね。嫌われますよ、そういうヒト」
「傍若無人にもほどがあるぞ、俺はお前さんを案内した。お前さんだってしっかり冥土まで案内してくれたっていいだろう?」
「現世の倫理が死神に通じるとでも思ってるんですか? ここは黄泉路。あなたは冥土に落ちる一般分類の魂。しかも迷子さんです。どう扱われても何も言う権利なんて持ってないんですよ。良かったですね、機嫌の悪い子に会ってたら食べられて終わりだったんですから。何また変な顔してるんですか? 気に入らないんですか。立場まだ分かってないんですね。刻まないと理解できないですか? 刈られちゃいますか?」
 鎌を傾けると黒の娘は冷たく笑う。
 刃に落ちる光もないのに、その大鎌は淡く輝いていた。死霊を思わせる青白い魂のような光だった。男は唾を飲み、現状を理解する。目の前にいる娘はどうしようもないガキにしか思えないが、やはり死神なのだと。
「わかってくれたんですね、嬉しいです!」
 言い終わると男に対する興味を失ったのか、黒の娘は踵を返して扉へと向かっていく。
 霧のただ中に高さ数メートルはある鉄の門扉が在る。
 分厚く重く、装飾は黄泉路に相応しい死者を掘り込んであった。その扉に小さな指先が触れていく。黒の娘の白い手だ。到底開きそうにない姿だったが、物理法則など存在しないというように静かに扉が動き、その内を見せていく。
 そこに在るのは闇だった。
 そして、白い下り階段がひたすらに続いている。黒の娘はわずかに躊躇ったあと、足を踏み入れ、闇へと進んでいった。扉の前、男だけが取り残され――。
「ひぃやあァああッああ!?」
 唐突に悲鳴が響いた。扉の闇から娘の声が。
「お、おい。大丈夫か!?」
 思わず駆け寄り、男は扉の中を覗き込む。
「いや! こないで! 変態中年、こっち見るな! ばかぁ!」
 どう見ても転んだ直後の黒の娘が何か喚いていた。
「なにやってんだ、お前」
「うぐぐ……」
 娘は顔を赤くしながら階段の上で身を起こしていく。
「こんな階段で転ぶとか、随分と鈍臭い死神もいたもんだな。あり得ないだろ、別にそんなに急じゃないぞ、この階段。いや、まあ地獄まで続いてそうな深さだが、それだけだ。転がり始めたら止まらないだろうなーってくらいには角度が付いてるが、まさかこんなところでそんな遊びするやつはいねぇだろ。だいたい暗いってもなんか妙に階段自体が明るいし、踏み外すことなんて――」
 調子に乗った男の言葉はそこまでだった。何故なら背を押すものがあったからだ。
 中を覗いていた男を、静かに閉まる扉が押していく。抗うには、少しばかり時間が足りなかった。

「おじさん生きてるー?」
「いや、死んでる」
 白い階段は随分と長かった。扉に押されて転がった男は身体でそれを味わい、今は広場のような開けた場所に倒れていた。闇の空間の中、白い板を置いただけのような場がそこに在る。
「どうでもいいんだが」
「なに?」
 男は床に倒れたまま、階段を下りてきた黒の娘を出迎え、視線をそのままに告げる。
「見えてるぞ」
「死ね!!」
 黒の娘の白い脚がしなった。
 スカートを翻した一撃が男の顔面にヒット。沈黙を与えた一撃に満足せず、追撃で二、三度側頭部を打撃する。
「鎌を使わないだけ有り難く思ってくださいよね!」
 言って娘は広場を進み出す。男は頭をさすりながら身体を起こし、娘の背に声を投げた。
「なあ、ここは何処に繋がってるんだ?」
「現世」
「マジか」
「おじさんは現世に帰れないですよ。行ってもいいですけど化け物になっちゃいますからね。別に私はそれでもいいですけど、化け物になっちゃった魂はしっかり刈り取らなきゃいけないので、お仕事が増えちゃうんです。どういうことか分かりますよね? だから何処に繋がってるとか関係ないです」
 靴音を鳴らしながら娘は進む。慌てて男は追った。
「だけどよ、冥土に行こうにも扉閉まっちまったぜ? この先に行くしかないじゃないか」
「勝手に落ちたんじゃないですか、知りませんよ」
「そりゃ可愛い悲鳴が聞こえたからな。様子も見ないで放っておくのは少しばかりアレだろう?」
 男はようやく黒の娘に並ぶ。
「そんな理由で黄泉路を迷う気ですか」
「そりゃ進んでも畜生道、餓鬼道、地獄道。いいことなんてありゃしないしなぁ」
「自業自得です」
「辛辣だなぁ」
「死神ですから」
 広場は果てがない。
「お前さんはこんな場所に何の用があるんだ? ああ、現世がどうとか言ってたな。そうか一万人案内するのが面倒だから、ここから行こうっていうんだな。だから扉のことを言ったとき凄い顔してたのか」
「そんな勝手なことしたら先輩に怒られちゃいます。しませんよ、行きません。そりゃあ現世で魂狩りするのが死神としては夢見る憧れのお仕事ですけど、だからって言い付け守らなかったらお仕事も何もあったものじゃないですもん。怒られるが怖いんじゃないですよ? 死神としての誇りがそんな勝手なことさせないんです。なんですかその目は。べ、別に私は先輩のお仕置きなんて怖くもなんともありませんよ!」
 カツンと大鎌の石突を立てながら娘が言った。
「疑ってるんですね。……一般分類のくせに生意気」
「ぼそっと毒吐くんじゃねーよ、性根が曲がりすぎだ」
 風切り音。
 刃が閃き、大鎌が空を裂いた。
 ぴたりと止まる。男の首、触れる寸前のその位置に蒼光に濡れる刃が在った。
「口は災いの元」
「お前が言うか、それを。……睨むな睨むな、わかったよ。すみませんでした。しかし現世に行くんじゃなかったら、ここには何のために来たんだ?」
「それは――」
 黒の娘は口をつぐむ。
「黄泉路のことは色々秘密です」
「今更だな、おい」
「それでも秘密は秘密です。それより、ここではぐれたら案内役なんていないので、本当に彷徨っちゃいますからね。そしたら化け物になっちゃうので、輪廻から外れちゃいます。それって怖いことなんですよ? 気を付けてくださいね。化け物になったら刈るだけですけど、この場合って点数にならないんですよね。だからそんな無駄なことさせないで欲しいんです。分かってくれました? それじゃ行きますからね」
 何かを探すように黒の娘は歩き出す。闇の中にある、白く続く道を。

 時間の感覚は曖昧だ。
 空腹もなければ眠気も襲ってこない。重たい闇に包まれているくせに、中途半端に明るい白い道が妙な希望を見せる。そんな現世では味わったことのない、近い表現ならば夢の中とでもいうような不思議な場所を、男と黒の娘は歩いている。
 時折出くわす奇怪な生き物たちを見て、男は娘が言っていたことが本当だったのだと改めて思った。それらの化け物たちは醜く、人の形すら失っていた。一様にぎらついた目だけが印象に残っている。おそらく自分ひとりでは一匹相手することすらできないであろうその化け物たちを、小さな娘は簡単に屠っていた。その刈り取りは手慣れたもので、踊るようでもあり、
「綺麗なもんだな」
 全身を使って振るわれる大鎌の軌跡は、蒼の残光をもって告げられる。その飛沫は回廊となった乳白色の空間で、蝶のように舞って消えていく。
 そうして幾度目かの戦いを終えたとき、不意にふたりの前にそれは姿を現した。断罪螺旋の御扉に入ってから初めて見る――人影だった。
 柱の陰から戦いを見ていたのだろうか。気が付いたときには、ゆらりとした影の焔とでもいうような人影は回廊に居た。その出現に驚いたのは黒の娘も同じだったようで、男の数歩前――戦いを終えた格好のまま、しばらく動きを止めていた。そのまま刈り取りにかからないのを見て、男はこの影の焔が敵ではないのだと理解する。
「やっと、やっと会えたね」
 呟きは小さく、男の位置からは娘の表情も見えなかったが、それが今まで聞いたこのとない涙交じりの声だと悟った。良く見れば影の焔は小さく、背格好は黒の娘と大差がない。
「……………………」
 応じるように影の焔が揺らめいた。何かを言っているような気がしたが、音の震えは伝わってこない。
「驚いてる? そうだよね、こんなところに来るなんて思うわけがないよね。自分でもどうかしてると思う。でも、会えたよ。だから会えたよ、ずっとそうしたいと思ってた。その姿はさすがにちょっとびっくりしたけど、でも変わってないよね。同じ。すぐにわかったもの」
 大鎌を身体に預けるように左手で持ちながら、黒の娘は影の焔に寄っていく。
「………………」
「帰ろう。昔のようにはいかないけれど、それでもここにいるよりは、ずっといいと思うから。嫌だとは言わせないからね。そっちの方がもっともっと勝手だったんだから。こんなときくらい私の我が儘聞いてくれたっていいよね?」
 白い手が伸ばされる。
 黒い手が揺らめいた。
 触れた焔は灼いていく。苦痛のためか黒の娘は顔を歪めたが、それを声には出さずに歯を強く噛んでいた。その小さな手に影の焔が刻まれていた。その刻印は広がっていく。手から腕へと伸びていく。伴い、影の焔は小さくなっていた。入れ墨のように刻まれていくそれが肩ほどまで至ったときには、影の揺らめきのほとんどは消えていた。
「…………」
 白と黒になった手の中で、小さな影の焔が何かを告げるように震えた。黒の娘は頷きで応じると、最後の焔も薄れ消えていく。

「あとは戻るだけか?」
 小さな背は頷きで答えた。
「今来た道を引き返せばいいのか?」
 返答はない。
「もしかして出口は分からないとか、そういう系か?」
 一拍。
 小さな背は頷く。
「……黄泉路の案内係ってのは不親切だな。ろくに案内も出来ないから現世に出させてもらえないんじゃないのか? お前さんの先輩もご苦労なこったな、こんな出来の悪い後輩なら俺は絶対相手にしたくないぜ。丁寧に毒は吐くし身勝手だし小さいし色気はないし」
 風切り音。
 今度は切っ先が男の眉間――揺れれば刺さりそうな位置に在った。
「……口は災いの元、です」
「わかったわかった言い過ぎた。すみませんごめんなさい、……これでいいか?」
 どこに目の焦点を合わせるべきか男は戸惑ったが、逡巡の後に切っ先を選んだ。黒の娘の顔、その瞳がまだ濡れていたからだ。
「とりあえず、進むか?」
 霞むほど続く回廊を見て、げんなりしながらも男は言う。大鎌を引いた娘は呟きで応じた。
「冥土はあっちです」
「どっちだよ」
「私が案内係だから、私が言った方が冥土なんです、だからいいんです。おじさんは黙って付いて来ればいいんです。私は優秀な死神だから、一般分類の魂を彷徨わせるなんて真似ありえません。わかりました? 私はこんな瑣末なことで躓くような死神じゃないんです。だからあなたは冥土行きです。私が絶対絶対案内します、間違いなく」
 進み出した死神の歩みは強い。一歩は確かで、靴音は回廊に響く。
「気が付いたら現世でした、なんてサプライズはないもんかね」
「ありません! っていうかそうなったらおじさんは化け物になるって言ったでしょう!? なんなんですか、やっぱり馬鹿なんですか、地獄に落ちますか」
「いや、落としてくれるなら願ったり叶ったりなんだけどな。案内完了的な意味で」
「聞こえません聞こえません聞こえません! ああもう行きますよ!!」
 歩みに揺れた鎌から零れる蒼の残光。
 蝶が背を押すように舞う。ふたつの足音が重なり、白の回廊に響いていく。

PR

Comment
Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
[39] [38] [37] [36] [35] [34] [33] [32] [31] [30] [29
«  Back :   HOME   : Next  »
プロフィール
HN:
あざの
最新コメント
[11/13 あざの@管理人]
[11/10 のけもの]
[10/19 あざの@管理人]
[10/18 tagu]
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
フリーエリア
忍者ブログ [PR]