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 なんでもいいのでとにかく書こうという話がありまして、ガリガリ書いてみましたので置いておきます。とにかくハードルを下げて色々書いていきたいとは思いますが……。どうなんでしょう。



 それは実に唐突に空から降ってきたらしかった。
 壊滅的な破砕音を響かせながら、魔導技師エアルの研究成果が吹き飛んでいく。
「な……」
 乾いた声がわずかに零れる。
「俺の……十年が……」
 破壊から生まれた煙が立ち込める研究室で、エアルは膝から崩れ落ちた。
 十代の頃から続けていた研究の日々が脳裏をよぎる。
 厳しかった師匠に、馬鹿騒ぎをして笑いあった研究仲間。徹夜明けの酷い格好で通った喫茶店での時間に、そこのウェイトレスが言ってくれた「お疲れ様ですね」の言葉。
「もう……少し……だったってのに……」
 眼鏡を通して見える汚れた床が、歪み、滲んでいく。
 悔しさから、憤りから、エアルは心の底からわき上がる衝動を抑え切れずにいた。
「あいたたたッ。あーもう、なにココ」
 不意に、エアルとは対称的な軽くて薄い声音が響く。
「……うわっ汚いしッ! サイテー!」
 遠慮なく言い放つ声は若い。鈴のように鳴るそれは少女を思わせた。
「え? あれ? これ研究室っぽいし。あれ? あ、もしかしてヤバ? あは」
 徐々に煙の晴れる部屋の中――ゆらり、とエアルの身体が起き上がる。
「エアル・エアストラの研究室へようこそ、お嬢さん」
 無精髭の生えた口元には薄い笑み。
「ただで帰れると思うなよ」
 無論、目は笑っていなかった。

「で、『魔女』が降ってくるのは『伝統』だから問題ないと、お前はそう主張するわけだな?」
「あーもう、わかったなら、さっさと帰してよ」
 黒い帽子に黒いローブ。古びたホウキを手にしながら、少女は煩わしそうに応じる。
 『魔女』とは概ね、力を持ち、自分勝手で、人間にとって畏怖、もしくは恐怖の対象である。
 ただし、世の中には何かと例外というものが存在している。
「人様の研究を盛大にぶち壊しておいて、『伝統』だから無罪放免? はっ、何処の誰かそんな理由で帰してやるものか。お前は俺の十年を踏みにじったんだからな」
「怪我なかったんだし、助かってるからいージャン」
 視線も合わさず不機嫌そうな少女に、エアルが顔を引き攣らせた。
「それに十年なんて大したことないジャン」
 ぼそぼそと続けられたその言葉は、エアルの理性をさっくり蹴り飛ばす。
「俺ら人間の十年はでけぇんだよッ!!」
 少女の背には、無残なガラクタと化した研究の山。
「化け物みてぇにン百年も生きられる『魔女』様と違ってな!」
 突き刺すような荒げた声に、少女は身体を竦めていた。
「……ば、ばっかじゃないの。それに――どうせつまんない研究だったでしょ、いい機会ジャン」
「いい機会……だと……?」
「そ、そうよ!」
 エアルの瞳がゆっくりと少女を映し出す。
 黒装束にホウキ。
 崩落した天井から落ちる月光が照らし上げるその姿は、確かに『魔女』に間違いない。
「そう……だな。いい機会だ。そう、いい機会じゃないか。『魔女』が手に入ったんだからな」
「……え?」
「くくっ……そうだ、そうだとも。またとない機会、またとないサンプルじゃないか……!」
「えっ、ええっ?」
「逃げ出せると思うなよ」
「――!?」
「今日からお前は俺のモルモットだ!!」

 魔導技師エアル・エアストラ。
 今年で二十八になるまでの十年間、飛行の魔導を研究していた。
 空を飛ぶ魔導は至難であり、それは『魔女』が行う魔法でしか実用のレベルに達していない。そして『魔女』たちの魔法が人間に扱えるはずもなく、多くの者は空を飛ぶことが叶わない。
 故に。
 エアルは魔導を学び、飛ぶことを研究し続けた。
 浮遊の術式から改良を重ね、『浮いている』状態から『飛んでいる』状態まで変化させることを目指していたが、その制御は安定性に欠けていた。術式に間違いはない。ただ、想像の外にある要因が足りないが為に、安定しない。そういった状態に在った。
 何が足りていないのか。
 知り得る限りの術式を試し、そして失敗し続けた。
 今、魔導を研究する者が知る術式では足りていない。
 新たな術式が必要だった。
 今までにない術式を組むためには、多くのサンプルが必要になる。
 翅を持つ虫を調べ、翼を持つ鳥を調べ。
 だが、足りなかった。
「そこで、お前だ」
「はァ!?」
「『魔女』は飛べるだろう」
「だから実験台にするっての? ば、ばっかじゃないの!」
「知っているぞ」
「な、なにをよ!」
「俺は一時期『魔女』について調べていた。『魔女』がどうやって飛ぶのかを知れば、俺の研究が少しは進むかもしれないと思ってな。まあ、結局は無駄だったんだが――その過程で俺は『魔女』の『伝統』も少々かじっていてな」
「……だ……だから? な、なによ」
「空から落ちた『魔女』は、近くにいた人間を助けなければならない」
「――ッ!」
「『伝統』は大変だよな、守らないと力が弱まっていくんだろう?」
「そ、そんなの知らない知らない知らない!」
「ほう、それで困るのは俺じゃなくてお前さんじゃないのか?」
「うぐっ……」
 少女はわずかな沈黙の後に口を開く。
「わかったわよ、助ければいいんでしょ助ければ。何すればいいのよ」
「そうだな、とりあえず片付けだな」
「はァ? そんなの自分でやればいいジャン。『魔女』関係ないし! 研究は!? 早く終わらせて帰りたいんですけど!」
「十年」
「は?」
「『魔女』のサンプルを取るのに十年は短いかもしれないが、それでも何かは分かるだろうさ」
「なにソレ? 意味わかんないんですけどっ!」
「そのままの意味だが? 大したことないんだろ、十年」
 魔導技師は、幼い魔女に向かって酷薄に笑う。
「宜しく頼むぞ、お嬢さん」

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無題
はじめまして。MMO小説大好きっ子の自分です。既存作の続きやあたらしいMMO小説を書くつもりはないのでしょうか?
tagu 2008/10/18(Sat)23:22: 編集
無題
はじめまして!
MMO小説、私も大好きっ子です。既存作の続きや新作MMO系小説は書きたいところなのではありますが、なかなか着手できず…。
徐々になんらかの形にしていければとは考えていますので、忘れた頃に寄って頂ければ幸いでございますっ。
あざの@管理人 2008/10/19(Sun)01:54: 編集
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