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今回は『箒とハルバード』の世界観でお送りします。
メカ少女という萌え属性、とかなんとか。
*
「立てよ」
と、その人は言った。
それはとても気に入らなくて、私は酷く苛立った。
「そのままならお前の負けだ」
言われなくても解ってる。
「……そうこなくっちゃな」
立ち上がっても、私の視線は見上げたままだ。
この人の背は高い。見下されてるようでイライラする。
「じゃあ、始めるか」
少女は弾幕を張って後退した。自分が遠距離攻撃主体なのに対し、相手は近接攻撃を軸に持ってきている。先程は不意を付かれて敗北したが、二度同じ手を食らうつもりはない。戦闘タイプの相性が悪いことは自覚していたが、それを負けの言い訳にしたくないと少女は思う。
着弾の爆煙は視界を遮ったままだ。
銀の髪を風になぶられながら、少女は背部の機械翼を制御する。無骨に伸びた四枚翼のスラスターは青白い焔を排出した。地表近くに在った身が、一気に空へと上昇する。
視界前面に映写展開される擬似HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に各種の情報が流れるが、今必要なのは敵との距離だけだ。開始時にかけたロックオンがまだ外れていないため、リアパーツの長距離砲よる自動射撃を連続で撃ち鳴らす。相手の反応速度を見た限り、この程度の攻撃は当たらないことが予想できた。それでも接近を遅らせる効果はある。
直後、敵との距離を示す数値がゼロへと向かって加速した。
速い。
爆煙を抜けて外骨格型アシストスーツに身を包んだ男が飛び込んでくる。背部スラスター全開の高加速だった。後方へ逃れる余裕はないと少女は判断。広げた四枚翼を閉じながら、相手に向かって下降する。その間も自動射撃を止めないが、男は身の捻りをもって弾道から逃れ突進してきた。
「――っ!」
少女は右脚部武装ラック内から短機関銃を引き抜いて迎撃。
ばら撒かれる銃弾が相手に届き、着弾の発光が眩しく散った。
少女にとってこの武装の射程は皆無に等しい。だが着弾時の威力はその分だけ高くカスタムしてある。確実に相手のキャンセラーを削ったはずだ。
この人も次からは迂闊に接近できなくなるはず。
機械翼を微調整しながら少女は相手との距離を計る。空へと投げたその身の加速を感じながら、敵との交差に備えた。
相手の武装は近接用のブレード。それもふざけた威力の刃だ。掠っただけでキャンセラーの大半が削られ、直撃を受ければ一撃で墜ちかねないほどの。
それが来た。
擬似HMDは警告音を激しく鳴らしているが、相手はまだ力を発動していない。
タイミングを合わせて身を捻るだけ。
ぎりぎりまで、操作を違えず――少女は相手の構えるブレードがM.A.N.A.の光を放つのを待った。
全ては刹那。
視界に閃きが見えたときには少女は反射的に機械翼を動かしていた。スラスターが稼動して小柄な身が回転する。急制御から生まれる視界にわずかな眩暈を覚えるが、そこから一気に反転して全武装を構えていく。
青。
見えるのは何処までも突き抜ける空の色だ。
地表を背にした少女の視界に、交差した男の背が在った。
擬似HMDは再びロックオンが完了したことを告げている。少女はためらいなく短機関銃の引き金を引いた。自動制御による長距離砲も撃ち込むが、その身体は落下し続ける。そのときになり、ようやく少女は気付く。
「うそ――!?」
映写展開されるパラメータは、キャンセラーの出力が三割削られていることを示していた。
完璧に避けたはずなのに……!
それは自分の中だけでのことだったと数値は無情に告げている。けれどそこに思考を割いている暇はなかった。男が向き直り、再び突進の構えを見せていたからだ。
馬鹿のひとつ覚えじゃないんだから。
思いながら少女は左腕を伸ばし――主砲を展開する。全ては虚空から出現。M.A.N.A.を集める動力装置を囲うようにフレームが展開され砲身を形作っていく。少女の細腕は機械の砲で覆われ、その狙いはブレードを構える相手に向けられた。短機関銃と長距離砲を停止して、全ての力を主砲に傾ける。
「避けられるものなら――」
誤差を修正する時間はない。相手は既に高加速に入っている。
敵はこちらが回避に専念しても余波に巻き込んでくるほどの近接攻撃特化型。
でも、それだけ特化してるってことは……。
皺寄せがあるはずだ。扱えるM.A.N.A.の量は限られるのだから。
「――避けてみなさいよ」
M.A.N.A.を取り込んだ砲身が吼えた。
装甲板の隙間から蒼の斜光が零れ舞う。
砲撃音は長く、一撃は地表側から空に向かっての柱となった。
雷撃のような穿ちが空を灼く。
直撃の手応えは――無い。だが、少女の口元は笑みの形に結ばれた。
「今度は私の勝ち」
見上げた空にはキャンセラーを失った男の姿が在った。今なら銃弾ひとつで撃墜できる完全に無防備な状態だ。少女は四枚翼を制御して空中静止。機械翼は地表すれすれを掠めて大きく広がった。大地を背に、少女は視界の空にある勝利を噛み締める。
主砲は相手を掠めただけだった。正面からの一撃だったのだから、相手の力量を考えれば当然の結果だ。けれど、キャンセラーを削る役目は果たしてくれた。そして、短機関銃を受けていた相手の身にはそれで充分だった。
本来、総合してもそれらの威力はキャンセラーの完全無効化までは至らない。しかし相手は攻撃に傾倒した特化タイプ。少女は、男が防護の要であるキャンセラーの出力を落としているがゆえの、そのブレードの威力だと判断した。
「まだ一勝一敗だろ?」
「不意打ちを勝ちに数えたいのならご自由に」
通信越しに聞こえる相手の舌打ち。
「次は勝つ。もう一回だ」
「御生憎様、仲間が騒ぎに気付いたみたい」
視界の端、空の彼方――箒に跨る魔女と闇の翼を持つ娘の姿が在った。
「……あんた名前は?」
「そういうの、興味ないから」
切り捨て、少女は通信を終了する。
視界の中から男が去っていくのを見届け、一息。
「敵と馴れ合いたいとか、どうかしてる」